ニロとカゴメ陽はまた昇る

2015年12月31日

グリコは元気の源

 過剰輸液によるグリコカリックス障害は最近のトッピクスですが、あまりそのメカニズムに言及する論文は多くありません。簡単に理解するためには敗血症におけるグリコカリックス障害について考えるのが近道と考え、Glycocalyx and sepsis-induced alterations in vascular permeabilityという総説を読んでみました。 

内皮細胞は心臓内膜、血管、リンパ管の内側を覆う一層構造で血管芽細胞から派生する。そして血管新生にかかわるVEGFなどのメディエータに感受性が高い。隣接する内皮細胞間の領域は内皮細胞裂(endothelial cleft, ETC)と呼ばれ、透過性制御にかかわる重要な部位である。最内側には13μmの厚さをもつグリコカリックス層がある。グリコカリックスの生成、分解は複雑であるが局所のPHや機械刺激が関与すると考えられる。グリコカリックスはETCを含んだ内皮全体をカバーしその構成要素はグルコサミノグリカン(GAG)とシアロプロテインで前者が重要な生理化学活性を有する。内腔面に突出したGAGはアルブミン、ヒアルロン酸、トロンボモデュリン、スーパーオキサイド還元酵素、ATⅢやCAM(cell adhesion molecules)と結合する。vcm_s_kf_representative_640x365
                                             上記論文より引用

グリコカリックスは非常に構造的に不安定で、なかなか3次元構造を特定することが困難であったが、走査電子顕微鏡の出現はその可視化を可能にした。しかし原法のルテニウムレッド染色に変わりランタンやアルシアンブルー染色を必要とした。問題点は走査電子顕微鏡はin vivoにおいてしか応用できない点である。もう一つの可視化法としてはグリコカリックスに直接結合する蛍光ラベル-レクチンやヘパリン硫酸、シンデカンあるいはヒアルロン酸に対する蛍光抗体法を用いる方法である。

ではグリコカリックスの生理学的役割は何か?微小血管や内皮細胞のキーマンである。1.微小血管のトーヌスおよび透過性を調節する。 2.内皮バリアにより浸透圧較差を保つ。 3.白血球の接着や移動を調節する。 4.血栓形成を抑制する。 の点において。またグリコカリックスは血管に対するシェアストレスを伝える機械刺激伝達器である(非常に面白い。並んだ水草の揺られ方が川の流れの速さを伝えているよう)。シェアストレスによるグリコカリックスの構造変化はNOを放出させ末梢血流や酸素供給までも調節することとなる。またグリコカリックスは内皮バリアの浸透圧較差形成に重要な役割を果たす。ETCも含め内皮はグリコカリックスで裏打ちされている。グリコカリックスはその中心成分であるGAGが陰性帯電しているためアルブミンと反発する。従って通常はアルブミンはETCを通過できない(ラージポアシステムはアルブミンを透過させるが敗血症ではその発現が増える)ETC直下はグリコカリックスにより境され、健常状態ではタンパク濃度は0に近いと考えられるので、理論的にはこの直下の領域の膠質浸透圧は0に近いと考えられる。従って経ETC的に働く力はほぼ血管内静水圧ということとなる。これにより少量の水分が間質に流入することとなるが、これはリンパ管系により除去される。内皮障害が進むと(ETC, large pore systemいずれからもアルブミンの透過量が増え)間質内への膠質蓄積を増加させる。これがRRT必要頻度増加、浮腫増悪、死亡率の増加に関与しているものと考える。
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              上記論文より引用
 では炎症環境下のグリコカリックスはどうか?最も影響を受けやすい場所はやはりETCだが、内皮全体が障害を受けることになる。陰性荷電の消失、ETCの立体構造変化、内皮細胞の直接障害により傍細胞部透過性が亢進し、ETCを通じてアルブミンが間質に流入するようになる。透過性亢進に伴い血液貯留を引き起こすとともに、血管トーヌスの低下、硫酸ヘパリンの変性の基づく凝固活性の亢進そして持続的な微小血栓の形成、白血球遊走に伴う接着因子発現の増加、および内皮への強力な酸化ストレス障害に起因する抗酸化活性の低下が引き起こされる。実験レベルでは内皮細胞へのLPSTNF-αの暴露はグリコカリックスの厚さを減少させ、強固性を減弱することが示されている。臨床的には(敗血症、大手術、外傷、虚血あるいは虚血再潅流、遷延する高血糖などにおいて)このようなグリコカリックスの変化は血管緊張性、アルブミン消失、循環血液量低下、浮腫形成および臓器障害と関連すると考えられる。

ひとつの問題はこの病態生理学的に重要なグリコカリックスが全身に普遍的に存在する構造であることである。要因は臓器連関である。上記の一連の局所反応がその名のとおり局所にとどまっているうちはよいが、メディエータを介しクロストークすることにより他臓器に飛び火したり全身性に広がる可能性がでてくる(たとえば重症AKIに引き続きALIを発症し、その後、他臓器にも障害が波及し治療抵抗性のMODSをきたす症例などもこのような病態と考える)。炎症下、IL-1,2,6, TNF-α, ブラジキニン, トロンビン, VEGF, ヒスタミンは逆に内皮でのICAM-1VCAM-1の発現を亢進する。これらの接着因子は白血球のローリング、接着、遊走を促進し内皮障害を含む組織障害を増長、グリコカリックスの分解が進みICAM-1, VCAM-1が流血中に移行してゆくこととなる。興味深いことに血中のIL-6ICAM-1, VCAM-1はパラレルに推移し、特に高血糖合併敗血症(高血糖で炎症による内皮障害が増悪する)で顕著である。

グリコカリックスの障害マーカとしてはシンデカン-1があげられる。シンデカンはグリコカリックスのコアタンパクで強い障害が加わると血中に流出してくる。より侵襲が大きいと考えられる敗血症例で手術症例より高い血中濃度をとる。ただしTNF-αとの相互作用により内皮の構造変化をきたし、内皮間構造(おそらくETC)が消失し、透過性が亢進、水分およびアルブミンの血管外流出をきたす。エンドカンはグリコカリックスの他の構成成分でTNF-αおよびIL-1に反応して放出される。エンドカンの血中レベルは敗血症の重症度と相関し、内皮障害の信頼できるバイオマーカと考えられる。敗血症誘発性AKIにおいて、しばしば微量アルブミン尿は糸球体内皮に対する炎症性傷害が原因の透過性亢進の結果である。尿中微量アルブミン/クレアチニン比(MACR)Surgical Stress Score, ISS, APACHEscore, SOFA , SAPSⅡだけでなく人工呼吸期間, PaO2/FiO2比と相関する。では微量アルブミン尿を規定するものは何であろうか?VEGFは内皮の透過性を亢進させる。これは糸球体においてもあてはまり、VEGFの発現が多くなると糸球体からのタンパク透過性が大きくなる。

敗血症はさまざまな併存する病態によって影響される。リポプロテインリパーゼは組織への脂肪酸放出をコントロールするが、その第一標的部位がグリコカリックスである。食事性高脂血症は内皮障害をきたす結果、内皮下にタンパクを輸送する。脂肪細胞から放出される炎症性サイトカインもグリコカリックスを障害する。一方グリコカリックスの強固性は動脈硬化において保護的に働く。高血糖については急性であれ慢性であれグリコカリックスの分解を促進するという。また糖尿病患者ではグリコカリックス層の菲薄化がみられるといわれている。

治療についてはステロイドがあげられている。理論的にはMACRを改善し、TNF-αの産生を抑制するはずであるが、まだ論争の多いところである。アンチトロンビン製剤やプロテインC製剤についての効果ははっきりとしたエビデンスを示せていない。その他N-アセチルシスティンが挙げられているが高血糖誘発性敗血症に有用であったという報告はあるが、これも明らかなエビデンスを持っていない。慢性高血糖状態における厳格な血糖管理のみがグリコカリックスの分解を抑制する可能性があると思われる。

 リンパ管にもグリコカリックスが存在することは、恥ずかしながら知りませんでした。大術後1週間近く経ち、水分出納も修正されてきているのになかなか浮腫が消褪しない症例には、じつはクロストークによるリンパ管グリコカリックス傷害がその一因となっている可能性があるのではないでしょうか(超急性に浮腫を伴うような敗血症性術後サイトカインストーム症候群、たとえば激烈な大腸穿孔例などでは病理標本において、リンパ管グリコカリックス層の脱落がみとめられりしないのでしょうか)? またこの論文では敗血症での膠質輸液投与は否定的ですが、適否はそのステージによるのではないのでしょうか?確かに敗血症性ショックではすでに激烈な透過性亢進が起こっているはずで禁忌とは思いますが、その初期において、すなわちまだマイクロポアが発現増加していない段階での膠質使用はそれほどリスキーなものと思えない。ただ、敗血症のどのステージからそのような変化が起こってくるのかにつき、正直私自身は理解していないので、今後新たな論文を収集し、検討してみたいと思います。

 大晦日となりました。来年の目標。
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 この清らかな湧き水のようにまわりにうるおいをもたらすこと。
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 そしてすべてのスタッフの架け橋となれるよう努力してゆきたいと思います。

                        平田学 

 



mh5963ya at 17:13│Comments(0)

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