2016年06月

2016年06月05日

○○は一日にしてならず

ちょっと古いのですが、2005年のRheumatologyに掲載されたMechanism of inflammation in goutというreviewを読みました。

痛風発作の滑膜での組織学的特徴は線状過形成および好中球、単球、リンパ球の浸潤です。誘因は外傷、手術、併存疾患、アルコール多飲(耳が痛い!)や尿酸代謝に関与する薬剤などです。それらが尿酸ナトリウム結晶の新生を促進したり、すでに関節内に沈着した結晶からの単結晶遊離を促進したりします。関節内への結晶沈着には局所体温やPHも関与しているらしい(過度の運動やストレスが関与するというのがここからわかる)。また面白いのは関節内のデブリが核となって結晶が大きくなっていく可能性があること。慢性の炎症が関節内にあればより起こりやすくなるということの裏付け?あんなにきれいな雪の結晶もその核にはちりやほこりを持っているのと似ていて面白く感じます。尿酸ナトリウム結晶に伴う炎症誘発の開始には肥満細胞の脱顆粒が絡んでいるとのこと。ということはmast cellの脱顆粒を防ぐことができれば、痛風発作のtriggerを抑える可能性があるかもしれない。クロモグリク酸、インタール®を内服しておくべきでした?肥満細胞がTNF-αを含む炎症性メディエーターを放出することにより下流に炎症カスケードが展開されていきます。

では次のステップ。何かで炎症が誘発されれば、必ず血管内皮が絡みます。血管内皮が活性化されるともちろん白血球が遊走してきます。その機序は、まずいつものパターンで血管のトーヌスがさがり、血流が増える。そして血管透過性が亢進する。ん?どこかで聞いた話ですね。そして白血球の組織浸潤!白血球が血管内皮に取りつくためにはE-selectin, I-CAM1, V-CAM1などの発現が必要ですがこれは肥満細胞から放出されたTNF-αがもたらします。そしてこれら一連の炎症は白血球が尿酸ナトリウム結晶と接触、活性化されることによりさらに増強される。おそらくこの白血球による悪循環を抑制するのがコルヒチンなのでしょう。さらにC5a等の補体系、S100タンパク、IL-8などがからんで、白血球の動員が促進されていくこととなります。コストの面から全く適応はありませんが、理論的には分子標的薬やシベレスタットが痛風に効く可能性があると考えられます()。では白血球の動員のあとどんな因子が局所炎症を増強してゆくのか?ここにもT0ll-like receptorが絡んでいるらしい。局所の関節炎が進むとともにその周囲や全般的な急性期炎症を増強していくこととなる。補体はというと普段は関節内にはあまりいないらしい。ところが痛風発作中の関節内は補体活性が著しく上がってくるとのこと。古典的経路、副経路ともに活性化されるようです。面白いのは古典的経路の活性化には一般的に免疫グロブリンの介在が必要なのに、痛風においてはグロブリンがなくても直接C1が活性化されること。また活性化に伴い、C3も活性化し、これがリガンドとなって白血球が取り付きIL-8産生を促し、炎症部位への好中球遊走を促進することとなる。キニノーゲンとその分解産物であるブラジキニンも尿酸ナトリウム結晶に対する炎症を助長する因子として重要とのこと。ブラジキニンは結晶上でキニニーゲンから産生され、血管内皮細胞を活性化し、血管拡張をきたすとともに血管透過性およびアラキドン酸の分解を亢進する。ブラジキニンは痛覚神経終末を刺激し疼痛を発生させる。またアラキドン酸分解によって生じたプロスタグランジンはこの疼痛閾値をさらに下げることとなる。また非ミエリン神経線維は刺激を受けるとサブスタンスPを放出するが、これも血管拡張、血漿流出、白血球誘導、好塩基球脱顆粒、プロスタグランジンやサイトカインを放出する。これも局所炎症、疼痛の増強に重要だそうです。

その後は細胞レベルでの炎症増強が中心。尿酸ナトリウム結晶はオプソニン効果により被食作用が増強します。CR3Fcγなど多くの好中球表面受容体が結晶との結合に関与し、以降好中球からメディエータが放出され、血管拡張、発赤、疼痛がもたらされます。同時にスーパーオキサイド、過酸化水素、一重項酸素等の活性酸素種も産生されます。この食作用に引き続き、単球が活性化され、私たちのよく知る炎症性サイトカイン、IL-1, TNF-α, IL-6, IL-8が産生されるとともにCOX-2も産生されると。上記を考えるとやはり、好中球の作用を抑制し、炎症が大火事となる前に押さえこむのがコルヒチン、火事が大きくなったときにCOX-2を阻害して押さえ込もうとするのがNSAIDsと理解できます。

では急性発作はどのように消退していくのでしょうか?一つは関節内の問題。アポリポ蛋白BおよびE。痛風による急性関節発作では関節液内の蛋白濃度が低下しています。コーティングが薄くなれば、好中球がより結晶に結合しやすくなります。炎症の消退過程で前述のリポ蛋白が関節液に増えてくると、好中球の脱顆粒を抑制します。次にACTH1-39などのメラノコルチン。そしてPPAR-γ、単球の食作用を抑制するとともに、さまざまな炎症性サイトカインの発現を抑制するようです。またPPAR-γのリガンドはCD36の表面受容体をもつ単球への分化を促進、これが死滅した好中球の除去に役立つようです。そしてこの単球の分化が急性発作終息にも関与しているとのこと。単球は幼弱マクロファージを経て成熟マクロファージへと分化していきますが、前2者はTNF-α, IL-1, IL-6などの炎症性サイトカインやPGなどを産生し、後者は抗炎症性サイトカインであるTGF-βを産生するようです。したがって単球から成熟マクロファージへの分化が炎症相から抗炎症相への転換につながることが推察できます。このように痛風の短期自然史には接着分子と白血球誘導から細胞分化まで、複雑な病態生理がからんでいるのは非常に興味深いところと思われます。

 

なぜこの論文に目をとおしたのか?それは15年ぶりに上記の病態が突発したからです。

それも4月の終わりに起こり、今年の大型連休はロキソニンとずっと一緒。プチ山歩きもできませんでした。言い訳をするわけではありませんが、そんなに暴飲暴食をしたわけではありません。やはり混み合った地下鉄通勤が、本来田舎ものである私にとってストレスだったのか?5月の半ばまでひきづりました。5月半ばの東京での研究会(のあとの立石詣で)と同末の福岡での麻酔科学会(と屋台での情報交換会)。その後も思い当たる節があります。そういえばまだ左足には違和感があります。新たに好中球の遊走と未熟マクロファージの発現を抑止する必要性があるとおもわれます。

 分化誘導療法は臨床血液学では当たり前となっているそうです。ほうれん草には顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子が多く含まれ、白血球の分化にも関与する可能性があるとの説もあります。とりあえずビールのあては、ほうれん草のおひたしでと思います。

                  

平田 学



mh5963ya at 17:33|PermalinkComments(0)