2017年05月
2017年05月07日
GALはおっさんより強し
尿中NGAL測定が2月に保険収載され、周術期AKI診断の迅速性向上が期待できるようになりました。AKIはMODSのリスク因子であるばかりではなく、潜在性MODSの一分症である可能性が高いため、MODSの診断自体にもかかわってくる可能性があるのではないかと期待しています。ただ尿中NGALの上昇がMODSの予測因子となるというような論文はあまりみかけません。血中NGALについてはその関連性を示唆するものを1編みつけましたので、斜め読みしてみました。
2015年のSHOCKにあったINCREASED
NEUTROPHIL GELATINASE-ASSOCIATED
LIPOCALIN IS ASSOCIATED WITH MORTALITY AND MULTIPLE ORGAN DYSFUNCTION SYNDROME
IN SEVERE SEPSIS AND SEPTIC SHOCK
123例のコフォート。ICU管理を行った重症敗血症(sepsis2012年の診断基準)及び敗血症性ショックが対象。観察期間は1年あるいは死亡時まで。エンドポイントは死亡あるいはMODS発症。NGAL値75%タイル(275μg/L)を超えるものをHigh NGAL群とし、それ以下のものをLow NGAL群としています。ログランクテスト上前者のほうが有意に死亡イベントもMODS発症が多いという結果でした。コックス比例回帰分析では、在室中のクレアチニン値増加量はどうも共変量選択過程の時点で残れず、調整はCRP値, eGFR値, 血清乳酸値, 中心静脈血酸素飽和濃度, APACHEⅡスコア, D-dimer値で行われ、NGAL高値のみが死亡及びMODS発症の独立したリスク因子であったとしています。
? まずベースラインの生理学的重症度スコアリングと採血実施日についての明確な記載がありません。ベースラインのクレアチニン値がmg/dl換算でLow=1.49mg/dl, High=2.23mg/dlと差があり、もちろんAKIを発症している症例が大多数と考えられますが、その発症時期が両群間で異なる可能性を全く否定できません。またその重症度についても違いがありそうです。AKIの割合及びそのステージ別の比率が示されるべきと思います。またeGFR値は、両群ともに平均値が60を下回っておりCKD症例が多いのではないかと勘ぐってしまいます(前値が少数でも示されていれば納得できるのですが)。AKIに関して補正しようと在室中のクレアチニンの増加値を提示し、両群間で差がないことを示していますが、P値は0.06でぎりぎりです。またここでも採血条件に言及していません。そもそもMODSについての定義も厳密になされていないような気もします。うがった見方をすればやはりNGAL値はAKIの発症割合及び重症度に相関して増加し、それが予後に影響を及ぼしているのではないかと考えてしまいそうですが・・・
直観的にはもちろんMODSでNGAL値はあがりそうですが、その特異性を調べるためにSOFAスコアで層別化して比較するとかあるいは腎、肝、肺、凝固等のMODSに影響を与えやすいパラメータごとに検討するとか等、細かなモデルが必要なのかもしれません。
GALはもちろんおっさんより繊細なのです。