X-discharge知るも知らぬもサザエさん症候群

2013年10月19日

誤算け?

ひさしぶりに和歌山を訪問しました。日赤学会総会のため。前日は当直で直明けという形をとり10時前に病院をでました。この時間帯は京都→和歌山間の直通特急がないため、新大阪からくろしおに、1時間程でした。車内は混み合っており、フォーマルな姿の方が多かったので、おそらく準専用列車となっていたのでしょう。医局員で和歌山の高校に行っていたものから駅からはタクシーを利用したほうがよいと聞いていたのでタクシーに。10分ほどで到着。すでに多数の参加者がポスターの前に集まっていました。

 

私の担当はずばり麻酔6題の発表がありました。1題目は頸椎後方固定後の術直後の呼吸不全、原因は両側横隔神経麻痺でした。この手術で横隔神経麻痺をきたすという報告はほとんどなく、非常に興味深い話でした。第2席はダウン症症例に対する2期的脊椎固定術。ラリンジャルマスクを上手く使い気道確保をされていました。

 

3席目は帝王切開に対する全身麻酔下腹横筋膜面ブロックの術後鎮痛への関与。帝王切開はDICをきたしている例や大量出血が予測される例では全身麻酔を選択する場合があります。その術後鎮痛は重要な課題です。というのも帝王切開は術後の肺血栓塞栓症のハイリスク群ですが、その予防のためには早期離床が重要であり、そのためには術後鎮痛が大きな要素となります。私自身は腹横筋膜面ブロックが離床までの期間を短縮できるかが興味あるところでしたが、それについては変わらないと。離床は術翌日昼となるので、その時にはブロックの効果はもちろんきれているとのこと。また仮に効いていたとしても離床などの運動時痛には無効であると。しごく当たり前のように思えますが、私は異論を呈したいと思います。ブロックが有効なのはその痛覚神経遮断においてだけでしょうか?疼痛刺激により交感神経系を刺激するのは明白で、それが創部の炎症(ひょとしたら他部位の炎症があればその部位の炎症を増悪させるようなシグナルあるいは、(臓器)連関物質が出る可能性はないか?肺炎を合併した大腿骨骨折で、脊髄クモ膜下麻酔中心で行った場合と全身麻酔で行った場合、術後の肺炎増悪にかなり差があります。全身麻酔自体の侵襲が肺炎を増悪しているだけとの考えは当然ですが、それにしても全身麻酔症例の肺炎増悪例が多すぎるような印象を持っています)を増悪させ、それがまた疼痛を増強する。このような悪循環が形成されるとこれは長期化し、翌日離床時の疼痛スケールを悪化させる可能性があると思いますが。また余談ですが、局所麻酔薬にはマクロファージや好中球の過剰な貪食作用を抑制するとのこと。この貪食作用に関連してラジカルが生産され、スカベンジャーが十分に作用しない環境下では組織障害を呈するわけですが、静脈内投与あるいは静脈内に移行した局所麻酔薬は好中球やマクロファージに存在し貪食能に関与するプロトンチャンネルを抑制し、臨床レベルでも抗炎症作用を示す可能性が言われています。

 

45席は平均血小板容積(MPV)と予後、術中心電図変化との関係。平均血小板容積は心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患と関連性が高いといわれていますが、今回の発表は周術期におけるMPVの重要性についての発表と思います。非常に興味深い発表でしたが、さらに症例数が増えると精度があがり有用性をますのではないかと思います。一施設で難しければ、多施設研究を導入してdetecting powerを上げるべき価値のある課題と考えます。詳しくはないのであまり勝手なことは言えないですが、まずMPVが増えるというのは血小板の幼弱化を示していると思われます。これは血小板が消費されている裏返しで、主なる要因は慢性炎症、特に細血管に炎症をきたしている病態なのでしょう。また慢性炎症による障害のため血小板の膜構造あるいは内部微小骨格が変化し、形態の膨化をしめすのかもしれません。いずれにしろこうなると血管内皮障害は必発であり、糖尿病や脳心血管障害と関連しやすいのは納得いきます。個人的に興味深いのは以下の点です。凝固更新型DICではMPVは増加すると考えられますが、その重症度と関連しないかどうか、多臓器不全に伴うDICではその治療が凝固亢進か線溶亢進で治療が全く異なるため、その早期鑑別に使えないかどうか、ARDSもその発生、増悪に血小板が重要な役割を示しますが、MPVがそれを反映しないかどうかです。

 

6席の発表は緊急手術と関連して各赤十字病院および埼玉県中部の中核病院の手術室運営につき施設へのアンケートを元に較提示した発表でした。緊急手術対応に関して対応不可となる要因のトップは麻酔科医数とのこと。これが普遍的であるならこの分野での麻酔科の貢献度を増やすという意味では、麻酔科医絶対数の増加を促進すること、定期手術管理の効率運営を図り、少しでも緊急手術受ける余裕をつくることに集約されると考えます。特に前者を支持するためには私達麻酔科医自身がわたしたちなりのおおきなvisionを明確化(社会貢献?地域貢献?教育?という形で病院レベルの話ではない)し、ある程度同じベクトルをもつ必要(もちろん個人の自由も大事でこれをコントロールするものではありませんが)があるのではないかと考えています。ただ緊急例受け入れに対しては医療圏での資源の効率運用をはかるため周産期情報システムのような情報一元化システムの運用等を検討すべきではないかと思います。わかりやすく言えば、夜間2列対応まで可能なとある周産期センター併設型救命センターがるとして、緊急で大動脈解離に対して弓部全置換を管理しているさいに緊急帝王背切開を申し込まれた場合、この後者までは機能的に管理を行う必要性はあると思います。しかし後者の管理が終わる前にたとえば外科的治療の必要性がある腸閉塞例がきたとします。後者の管理がおわるまで待機可能と考えられなければ、地域搬送を考えないといけないと個人的には考えます。その様な場合に地域医療資源ネットワークがあれば、時間の節約ができると考えます。上記の個人的と書いたのには私なりのポリシーがあるからでそれについて説明しなければなりません。院内で2例までの夜間緊急手術を受け入れるというコンセンサスがあれば、私達麻酔科医は全力でこの2例にかんしては麻酔の安全性を担保しなければなりません。状況によっては、非番の者を呼び出してバックアップさせるかもしれません。ただ万が一3例目が増悪し、急に外科的対応が必要となった場合、手術室看護師、麻酔科医、病院の他のバックアップ資源を考えても不足が考えられる場合。すでに手術している2名の患者の安全担保を崩してまたまさに手術しようとする安全性も担保できないまま手術を施行してよいものでしょうか?人によってはこうなる確率なんて5年に一度くらいでしょ?という意見もあるでしょうが、確率が低くてももしこの状況で最悪の事態が生じた場合は、私は悔やんでも悔やみきれないと思いますし、現状では社会的な批判は免れないと思われます。但しその病院でしか救命できないような症例が生じた場合、例えばこんなケースはないと思いますが、予測不能な環境下、院内で発症した急性硬膜外血腫でヘルニア目前という状況、これが重なれば、非常事態宣言を発した後院内の医療資源をすべて使って救命すべきでしょう。いずれにしろ、救命センターを含む多部門センター併設型病院では、病院自体の医療安全を鑑みる必要性があります。院内外救急双方に対応するため、院内の重症救急患者の把握および情報発信のためのネットワーク作成とその運用。また医療圏の資源(医療圏内にIVRが現時点でできる施設数とその所在、緊急手術ができる施設またその可能な手術内容および所在)に関して一元的に情報統括をしてゆくシステムも必要と考えます。

 

またまた話はそれてしまいました。和歌山からの帰りはアドバイスも聞かず、和歌山市駅まで歩いてみました。2km10kmのように感じました。帰りは難波まで南海を利用しましたが、特急サザンはシートも広く快適で一眠りでき、少し南海のファンになりました。

そういえば帰る直前に和歌山ラーメンを食べてみましたが、そこは誤算で聞いたほどではなく、スープは豚骨醤油でしたが甘ったるくおいしいものではありませんでした。次回下調べをしてから行きたいと思います。

 

 やっぱり天一サイコー     平田 学



mh5963ya at 12:00│Comments(0)

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